前回のシンポジウム(第32回)
第32回母乳育児シンポジウムを開催して
実行委員長 畑崎喜芳(富山県リハビリテーション病院こども支援センター小児科)
令和6年8月24、25日に金沢市に於いて、第32回母乳育児シンポジウムを開催させていただきました。この年の元旦に能登半島地震が勃発し、実行委員会ではまずシンポジウムができるかどうかが議論されました。結局、何とか開催に漕ぎつけることができましたが、開催された8月の時点でも奥能登では倒壊した多くの建物がまだまだそのままの状態であったりなど、震災の爪あとが深く残る中での開催となりました。そのシンポジウムでは、「震災と母乳育児について考える」というテーマの企画を設けました。震災を経験したからこそ母乳育児に関して発信していけることがあるのではないかと考えたからです。その震災を振り返って、母乳育児だからこそ安心して授乳もできたし、母子ともども精神的にも安定して困難も乗り切ることができたのではないかと感じました。
今回の特別講演としては、「母乳育児に関してエコチル調査から見えてきたこと」と題して富山大学のエコチル調査チームからご講演をいただきました。「母乳育児が産後うつを減らす」「母子同室と早期授乳が生後6か月までの完全母乳率を上げる」という内容でしたが、母乳育児に関してのエビデンスが日本からなかなか出てこない状況にあって、この特別講演は母乳育児支援に邁進する私たちを大変力づけてくれるお話でした。エコチル調査のデータは母数が十万近くになるため、ここから導かれる結論は貴重なエビデンスとなります。ご講演いただいた内容も全て英文雑誌に発表されています。そういった意味においてとても意義のある特別講演だったと思います。
さて、今の時代、母乳育児に大きく影響する因子として「SNS」と「父親の育児参加」があげられます。SNSに母乳育児に否定的な情報が流れ、それを信頼してしまうお母さんたちが多くおられます。また父親の育児参加が促進されることによって母乳育児がかえって妨げられるという現象も起きています。そういった現代ならではの問題があり、これらは母乳育児支援をしている私たちにとって避けては通れない大きな障害となっています。そこに焦点を当てて「SNS時代の母乳育児-母親たちに本当の情報を届けるために」と「母乳育児と父親の育児休業を考えよう」というシンポジウムを組みました。特にSNSのシンポジウムでは新たな試みとして実行委員諸氏による寸劇を行いました。結論としては、SNSに惑わされないリテラシーを培うことが肝要であり、母乳育児支援者によるお母さんに寄り添った支援が結局は誤ったSNS情報に打ち勝つのではないか、ということになったと感じています。また、父親の育児参加のシンポジウムでは、「お父さんにも授乳して欲しいのでミルクにしたい」とか、お母さんがせっかく頑張って母乳育児をしているのに、その大変そうな姿を見て安易に「ミルクを足したら」とお父さんが声をかけてしまうことなどが指摘されました。こうした問題の解決策として妊娠中
からお父さん、お母さんに母乳育児に関しての正しい理解を得ていただくよう、努力する必要があると思われました。とりわけお父さんに対して、母親学級の場などで母乳育児支援・協力をお願いすることが重要と感じました。
最後になりますが、シンポジウムを終わってみて本当にいろいろな方のご尽力をいただいたことを強く感じます。まことにありがとうございました。基調講演を引き受けていただいた一橋大学教授の臼井恵美子先生(父親のサポートがカギを握るおっぱいの経済学)、国立病院機構九州医療センター・ときつ医院の佐藤和夫先生(SNS情報の母乳育児、支援者はどのように考えたらよいか)にも深謝申し上げます。シンポジウムでは日々母乳育児支援に頑張っている皆さんと顔を合わせ、語り合ったことがとても楽しかったと思い起します。そしてこのシンポジウムを契機としてよりいっそう母乳育児が普及していくことを願っています。