Webinar要約 「早産児/低出生体重児のケアに関するレコメンデーションの運用」(2022/11/17、世界早産児の日)
2023/02/09
国際会議担当委員会
Webinarは3つの部分に分かれていた。第一部:新しいレコメンデーションの紹介、第二部:パネルディスカッション:新しいレコメンデーションの開発背景と運用要点、第三部:今後新しいレコメンデーションを遂行する際にWHO/UNICEFから必要なサポート。
今回のレコメンデーションは20か国より集まった25名の専門家で構成された「ガイドライン開発グループ」によって、2年間をかけ、38のシステミックレビューやメタ分析を参考に作成された。内容は25のレコメンデーションから成り立っている:そのうち11が新規で、14が過去のアップデートである。一方で、11が強い推奨で、14が中程度の推奨である。
第一部:レコメンデーションの紹介
早産児/低出生体重児のケアに関するレコメンデーションの25か条の中から以下の項目がピックアップして強調された。①出生直後、全身状態の許す限り早い段階のカンガルーケア開始、②抜管に向け、または無呼吸発作治療のためのカフェイン投与、③RDSに対するCPAP使用や生後早期からCPAP装着、④自母乳/ドナーミルクで生後半年までの完全母乳栄養、⑤早期から始まる経腸栄養、⑥安全でスピーディーな栄養増量プラン、⑦出生直後から早期の家族中心のケア、⑧退院後の家庭訪問、⑨鉄剤の内服。
今回のレコメンデーションの運用にあたって、我々は各国での実行に必要な活動に焦点を置いた。現在、三つの問題点がある:①物品の購入や設備の充実などの断片的な努力をするより、相乗効果を高める組織的なアプローチに変えるべきである、②これから運用を始める国がより効率よく進められるため、既に実践できている国々(例えばインド、バングラデシュ、マラウイなど)との経験の共有が必要、③医療施設とコミュニティの間のギャップを縮め、シームレスなケアが求められる。
第二部:パネルディスカッション
Webinarの第二部は、強い推奨の項目についてパネルディスカッション形式で開発専門家が各自の意見を述べた。
① 家族中心のケア:家族に早産、低体重の新生児を育てる自信づけを行うために、生後早期から医療チームの一員として家族がケア全般に入ることが大切なポイントである。それから、退院後の家庭訪問やフォローアップも忘れてはならない。場合によって、地域のピアサポート、家族団体に紹介することも必要かもしれない。出生後早期からのskin-to-skinは母子の絆形成、そして24時間の母子同室は母乳分泌に非常に有益である。コロナ禍で母子、家族分離が続いている現実の中で、できるだけ家族分離を避け、児のケアに最大限家族に参加してもらうのが我々の大きな課題である。
② カンガルーマザーケア(K.M.C.):従来はさらに小さい(2kg未満の)早産児で行われるイメージだったが今後は2-2.5kgの健常な低出生体重児や、自家出産の児も含めて、母子関連病棟やコミュニティにいる全ての母子が推奨対象になる。さらに、出生直後から母のK.M.C.によって、母親が児のケアの主要メンバーになることが大切である。
③ 可能な限り早期から、できたら生後1時間から自母乳もしくはドナーミルクにて栄養開始する。早産児の栄養の進め方としては、full-feedingのより早い達成を目指し、30ml/kg/dayの増量ペースは実は安全で許容可能である。すべての早産児により良い体重増加、新陳代謝と神経発達を図るべきである。
④ 出生後呼吸障害を呈した児には最初から酸素投与するより、早期のCPAP装着が良い。地域病院においては呼吸障害による転院の母子分離を防ぐため、CPAPを備えるべきである。
⑤ カフェインは経口投与、静脈内投与のいずれも可能であり利便性が高く、早産児無呼吸発作の治療、呼吸器からの離脱や再挿管の予防に非常に有用である一方、値段が高価であり、中/低所得の国においてはまだ十分浸透したとは言えない。今回のガイドラインがきっかけでカフェインがより入手しやすくなることを期待する。
第三部:今後レコメンデーションを遂行するため必要な行動
今後新しいレコメンデーションを全世界に遂行するため、WHOとUNICEFにとって必要な行動は:
① 各地域の二次病院で通用できる導入ガイドの発行。
② 各施設において本レコメンデーションをスケールアップするために、エビデンスのある文献を見直し、標準的なインフラストラクチャー(例えば24時間面会可能にするための環境作りやスタッフ配置、CPAPの増備、カフェインの流通、感染対策チームの成立など)を構築することが必要である。
③ 早産児医療の品質向上のため、医療スタッフ間の再教育の励行が重要である。
④ 良好なレポートアンドフィードバックシステムの構築が望ましい。
⑤ 世界中どこでも参加できる国際コンサルテーション会議の定期的な開催。
上記によって、この新しいレコメンデーションのカバー率を80%以上に上げたい。
結語
早産児/低出生体重児ケアのレコメンデーションの積極的な遂行によって、開発途上国だけではなく、先進国も含めて全世界にわたり、早産児医療に画期的な影響がもたらされ、脆弱な早産や低出生体重児の生存率や長期発達予後の改善に寄与することが期待される。