日本母乳の会からの提言

<前書き>

日本母乳の会として、「分娩時のおかあさんにやさしいケア」に対する考え方

日本母乳の会は、 一人でも多くの母子に母乳育児の幸せを」をモットーに、多くの 母子を支援し、また、その母子を援助する医療者、そして社会のために活動しています。本来、妊娠・出産・育児は心身の一連の流れであり、健全な育児をするためには妊娠、出産期から切れ目ない支援が必要であす。そして、母乳育児もその流れの中にあり、妊娠や出産と相互(密接に)に関連しています。

私達日本母乳の会はその視点に立ち「分娩時のおかあさんにやさしいケア」とは何かを考えること が必要であると考えました。WHO も母子が最高の出産体験を得るためには女性中心のケアが重要であり、それは全人的で人権を重視した方法によって実現すると述べています。そこで、私達は 以下の項目が「分娩時のおかあさんにやさしいケア」となると考え、提言いたします。提言の内容を、Ⅰ:お母さんを尊重し、プライバシーを保護する、Ⅱ:産前産後のお母さんと医療者との話し合い、Ⅲ:出産中の援助、Ⅳ:出産中の医療介入は適応を十分検討して行う、Ⅴ:硬膜外麻酔による出産、 Ⅵ: 出産後の援助、Ⅶ:早期母子接触・母子同室・母乳育児 、Ⅷ:お母さんに寄り添う全ての人が心がける事の8項目に分け、それぞれの観点から提言を行うこととします。すべての提言では「お母さんが主体的に出産に向き合い、達成感、自己肯定感が感じられように出産を支援し、お母さんが持っている児を産む力・育てる力を最大限発揮できるように支援すること」が大事であるという私達の考えを基本としています。

Ⅰ:お母さんを尊重し、プライバシーを保護する

1)妊娠・出産・育児におい ては、女性としての尊厳、プライバシー、個人情報、および人権が守られなければならない。これらの事柄は赤ちゃんにも適応される。

2)出産全期にわたって、お母さん本人が選んだ人による付き添いがすべてのお母さんに推奨される。

3)お母さんと赤ちゃんに有害な援助や不当な対応がないことが保障され、医療介入を受ける場合には十分な説明を受け、納得したうえでの選択権が保障されること。

Ⅱ:産前産後のお母さんと医療者との話し合い

1)お母さんとあらゆる機会を通して話し合いと言葉かけの機会をもつこと(バースプラン・バースレビ ューなど)。

 2)出産の方法は自然出産を基本とし、医療介入が必要な場合があることを事前に説明し、お母さんと十分に話し合っておくことが求められる。

3)どのようなお産や育児をしたいか充分に出産前に話し合われている。バースプランの提出をさせることで、要求を出すことに慣れていないお母さんから希望や気持ちを引き出す。バースプランは出産・育児に対する希望や思いを引き出し、医療者との信頼関係を築く手段として有効である。

4)早期母子接触や早期授乳開始を含め母乳育児は妊娠・出産に引き続き、重要であることを十分に説明する。

Ⅲ:出産中の援助

お母さんの出産時の体験は育児を含めたその後の生活に大きな影響を及ぼす事を考慮しながらすべての援助を行うことが求められる

1) 出産が行われる環境は母子の心身の安全を確保すると共に母子にとって快適であるよう配慮されること。

2) お母さんの好む食事と水分を自由にとることができる

3) 出産全期間にわたって体を動かしたり、歩いたり、上体を起こした姿勢(座位、 立位、スクワット等)をとるなどお母さんが自発的に体を動かす様勧める事が推奨される。

4)出産全期間にわたって、お母さんの望む体位をとることができる。

5) 出産直前の体位の選択は医療介入が優先 される時を除いてお母さんの選択を優先する。

6) お産の各時期の標準的な所要時間※は確立していないのでお母さんによって個人差があることをお母さんに伝え、またその事を踏まえて分娩の進行を見守る。※ WHO の intrapartum care for a positive childbirth care (2018)では子宮口開大5cmまでを潜伏期、5cm以上を活動期として定義を見直している。

7) 娩出期においてはお母さんが自身の努責感に合わせるようにする。

8) 鎮痛剤などが必要な場合以外は、お母さん 本人の個人的な好みを尊重しつつ、できるだけ薬を用いないで痛みを緩和する方法を使うことを考慮するよう促す 。

9)お母さんの好みに合わせて、さまざまなリラクゼーション法を用いることも推奨される。

10)会陰裂傷を予防し自然な出産を促すために、お母さんの好みや使用可能な選択肢に合わせ、会陰マッサージ、温罨法、会陰保護などが推奨される。

Ⅳ:出産中の医療介入は適応を十分検討して行う

1)自然な経過で出産できることが最良だが、医療介入が必要な出産となる場合がある。その場合は、お母さんとの話し合いをする。 医療介入(人工破膜、会陰切開、陣痛誘発や促進、鉗子や吸引などの器具を用いた侵襲的な手技)を行う時は、ていねいに説明され、同意が得られるようにする。

2)分娩遷延を予防するために、早期に人工破膜とオキシトシンによる陣痛促進をしない。分娩第Ⅰ期の所要時間は個人差がある。このことを踏まえて医療者はお産に立ち合い母親に寄り添う。お産に臨む母親にはお産をする前に第Ⅰ期の所要時間に個人差があることを知らされているべきである。

3)自然な経過で出産できるお母さんに対し、会陰切開を慣例的にもしくは多用することは推奨されない。

4)お母さんの意向が医学的にみて正当でない時は、医療者側から十分でていねいな説明が必要である。その後、医学的に正しい方向にお母さんの意向が導かれように、十分に話しあう。

Ⅴ;硬膜外麻酔による出産

硬膜外麻酔分娩について無痛分娩という言葉が使われるが、正確な意味がわかる硬膜外麻酔分娩という言葉を使う

1) 硬膜外麻酔などの麻酔を用いた出産は医学的適応に基づいて行われ、十分な説明と同意を得て安全な提供体制のもと実施される。お母さんの疼痛に対する過度な恐怖心など心的ストレスに対する適応も医学的適応と考えられる。

2) 硬膜外麻酔などの麻酔を用いた出産において、リスク等も丁寧に説明することが重要である。

3) 硬膜外麻酔などの麻酔を用いた出産に対しては、今後、母乳育児や母子関係への影響などについて長期的に検討することが必要である。

Ⅵ:出産後の援助

1)出産終了後一定の時期を経てその出産を取り扱った医療者はお母さんと共に出産の経過を振り返り、お母さんが自己肯定感を高められるように関わり、それによってお母さんが自信をもって母乳育児に取り組めるように接する。

2)出産を取り扱った医療者は振り返り(バースレビュー) の重要性を理解してお母さんと関わる。

Ⅶ:早期母子接触・母子同室・母乳育児

1)出産は児娩出で終わりではなく、早期母子接触・母子同室・母乳育児に引き続くものであることを認識することが、お母さん、スタッフともに重要である

2)WHO の母乳育児成功のための10カ条に添ったケアがなされている。

3)すべての赤ちゃん(低出生体重児等を含む)は、臨床的に母子の状態が安定していれば、生まれてか

らできるだけ早期にお母さんの胸におかれ、肌と肌が 触れ合う状態で過ごす。

Ⅷ:お母さんに寄り添う全ての人が心がける事

1)お母さんの行動・意向を受容し肯定し、お母さんが持っている産む力、育てる力を引き出す適切な言葉かけを行う

2)「お母さんの希望に添う」ことと「分娩時のやさしいケア」を混同しないこと。満足度が高い、自己肯定感がもてる出産だったと振り返ることができる出産となるためには、「希望に添う」だけではなし得ない。「お母さんの要求に答えること」と、「お母さんの言葉・意向のみに答える」を混同しない。

3)早期母子接触・母子同室・母乳育児の重要性、将来に及ぼす影響の説明を行い、母子の将来を常に考えることが重要である。

4)お母さんが正しい情報を十分に得ているのかを確認し、情報の追加や支援の提案が求められる。